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 ワークシフト〜価値を高める働き方〜
 
 インタビュー 全日本シール印刷協同組合連合会会長 田中祐氏
(東京都正札シール印刷協同組合理事長) 
 
 業界に刺激与える変革を

印刷市場全体が縮小する中、働き方改革を進めることで、人材獲得・育成だけでなく、社員のモチベーションアップや企業力向上へと繋げることができるという。全日本シール印刷協同組合連合会の田中祐会長(山王テクノアーツ且ミ長)に、自社の取り組みを踏まえながら、働き方改革と業界発展について伺った。
 
  人材の獲得や育成は、現在、印刷産業においても大きな課題となっております。しかし、企業毎に経営指針や方向性、目標が異なるため、各社毎に取り組んでいかなければならない課題でもあります。
 山王テクノアーツ鰍ナは、7年前から大学卒業生を、昨年からは高校卒業生の新卒採用を始めました。新卒採用は、今後も継続して取り組んでいこうと考えております。企業を存続させるためには、新しい人材を採用し、育てていくことが大切だからです。
 企業の存続だけでなく、新卒採用は人材育成にも役立ちます。毎年採用を続けると、新卒で入社した人が翌年には先輩になります。すると先に入社した社員に自然と先輩としての自覚が芽生え、意識が変わっていきます。そうした社員の成長を目の当りにすると、やはり採用活動を続けることの大切さを感じます。
 弊社では社員教育として、入社して1年目はビジネスマナーをはじめとする研修で基礎的なことを身に着けてもらいます。2年目以降は、社内で学ぶOJTに加え、会社として学んでほしい事や興味のある事について社外機関を活用して学んでいきます。
 なかでも、印刷営業士や印刷生産士などの資格は、業界団体が提供する制度を活用しています。業界以外の屋外広告士の資格取得やビジネスキャリア検定などに挑戦する社員もおります。業界団体の資格の中には、厚生労働省からの認定資格もあるため、取得した本人にとって強みのある資格にもなると思います。
 
 組合事業も活用して企業を成長させる
 
 一方で、企業そのものの向上も必要だと思います。全日本シール印刷協同組合連合会では、2017年から技術優良工場を認定しています。優秀な技術者の輩出と高い技術で製作された製品の普及による業界の活性化や、アウトサイダーとの「差別化」とブランド化、あるいは地域においてリーダーシップを発揮できる企業の育成やモチベーションの向上などを目的に、行っているものです。
 技術優良工場の選定は、「シールラベルコンテスト」において、一定の基準をクリアした作品を製作した会社であり、全国の技術委員が認めた企業が認定されます。優良企業を選定することで、組合内で、企業同士が切磋琢磨する機会となることも期待しています。
 こうした業界組織を活用した取り組みだけでなく、個企業としての取り組みも行っていきます。弊社では、3年前から『山王スキルリスト』を設け、社員のレベルアップに努めています。スキルリストの内容は、主に@プロフェッショナルスキル、Aビジネススキル、Bヒューマンスキルの3つに分かれています。
 中でも、資格や経験以外を評価するポータブルスキルに該当する「ビジネススキル」の向上に力を入れています。同スキル評価は、昇給などにも反映され、経験や経歴に捉われず、平等に評価する材料として役立てています。
 こうした取り組みは、社会人として仕事ができるだけでなく、人としての成長を目指してもらいたいとの想いから始めました。個人の成長によって、その集合体である企業も成長できるからです。
 
月当たりの残業を30時間削減
 
 働き方改革への取り組みもできるところから始めています。例えば、弊社では毎週水曜日はノー残業Dayにしています。開始当初、定時を過ぎても残っている社員がおりましたが、今では定着し、水曜日は早く帰るように仕事の流れも変わってきました。
 これまでの印刷産業は、受注産業という体質を背景に、納期最優先で生産計画が進められてきました。そのため仕事が終わらないと残業が重なり、加重労働になるということが恒常化していたと思います。しかし、そのままでは現場が疲弊していきます。
 そこで、弊社では生産計画の見直しに着手しました。本当に全ての受注内容が短納期の必要があったのかを見直したのです。お客様に対して、納期について相談をしてみたところ、大半の企業から主旨を理解して頂けました。その結果、納期についても受け入れてもらえました。
 生産計画の見直しを行った結果、残業時間が1ヶ月当り約30時間削減でき、従来の3分の2に減りました。弊社の仕事の納期の平均は、1ヶ月から1.5ヶ月程度ですが、短納期の依頼があった場合、特急料金を頂いて対応するようにしています。
 
働き方改革で魅力ある企業に 
 
 「働き方改革」の中でも、ダイバーシティや女性活躍について注目されていますが、弊社では男女の比率が逆転し、女性社員の多い職場になりました。女性社員の中には派遣社員として働き始めて、その後、正社員になる方も多いことが、女性社員の比率の上昇に繋がったのかもしれません。
 印刷業といえば「3Kの職場」と言われてきたわけですが、機械化も進み、女性が進出しやすい環境になりつつあるように思っています。
 職場の女性の比率が上がってきたので、今後は女性目線での社内環境整備を進めていけたらと考えています。さらに将来は、女性管理職を誕生させ、業界におけるロールモデル企業になることを目指しています。
 その他にも、在宅勤務(リモートワーク)への対応も進めています。社員の中には、男女関係なく、突発的であれ、継続的であれ、家庭の事情で会社に出社できないということが発生します。今までも外勤の営業担当が直行直帰時に外出先でタイムカードを押せる仕組みは導入していましたが、今後はこうした個人の事情に合わせ、在宅で作業しても勤務時間としてカウントできる制度を設けたいと考えています。課題に応じた仕組みづくりを行うことで、個人の事情に応じた働き方が提供できると思います。 
 今後、働き方の環境を変えていかないと、優秀な人材はより良いワークスタイルを提供する会社へ流れてしまうのではないでしょうか。ですから、企業が魅力的であることが必要です。
 女性が働きやすい職場づくりや、リモートワークへの対応など働き方改革を進めることは、取り組み次第では企業の魅力向上に繋げることができます。そうした意味においても、緊張感をもって、働く環境の整備を行うことが大切だと思っています。
 山王テクノアーツで成功した取り組みについては、組合活動の中で、今後も発信していけたらと思っています。またシール組合の中には優れた企業も沢山ありますから、お互いの良い成果を情報として持ち寄り、お互いの刺激として切磋琢磨し、発展していく組織にできたらと思っています。
 そのためにも、まず自社内で働き方改革を進めていきたいと思っています。それが社内の生産性の改善や、社員のモチベーションアップにも繋がり、企業を成長させる糧になると思うからです。良い会社として進化することで、業界に刺激を与えることができればいいと思います。
 今や従来通りの印刷会社のままでは対応できない時代を迎えております。経営サイドから意識を変え、企業のあり方を見直し、工夫していくことで会社にもプラスに作用すると思います。変革に必要な情報を、組合活動の中で発信し、皆様に役立てて頂きたいと思っています。
 
 
 全日シールでは、今年10月25日、第61回年次大会「びわ湖大会」を開催します。記念式典などのほかに、第29回シールラベルコンテストの作品も展示します。今回は、京都シール印刷工業協同組合の組合員・協賛会員・青年部員の全面的な協力のもと実行委員会形式で準備を進めて頂いております。中でも、懇親会は琵琶湖での船上ナイトクルーズを予定している他、エクスカーションではお茶屋ツアーを企画しています。滋賀・京都における親睦・交流を通じて、参加される皆様に新しい発見をして頂きたいと思っております。
 
記事提供 ニュープリンティング株式会社
 プリンテックステージ7月15日付から転載